トルクって何?危険なもの?

トルクの影響は無視できない、らしい!。文化社会系の自分にはいまいちピンとこないが、Goo国語辞書によるとトルク(torque)とは「回転している物体の回転軸の周りに働く力のモーメント。ねじりモーメント。」とある。パラモーター関連では、要するにエンジン(プロペラ)回転の反対向きの力のようだ。

以下の絵のようにヘリコプターも水平に設置されている回転翼(プロペラ)が左に回ると、機体が反対の右方向に回ろうとするトルクが発生する。それを胴体尾部に付いているテールローターという垂直方向に装備されたプロペラで回転を制御するようだ。

Antitorque – USA FAA, Public domain, via Wikimedia Commons

残念ながらパラモーターにはテールローターのようなものがないので、テイクオフや上昇のためにプロペラの回転数を上げるとエンジンユニット全体がその反対方向に回転することになる。そのことだけでは旋回しないが、回転によってユニットが傾き、ユニットに直結しているライザーが引き下げられるためにブレーキハンドルを引いたと同じ効果が生まれる。従って、その反転トルクに対応するためには、反対側のブレーキハンドルを引いたり、体重移動したりして対応せざるを得ないようだ。

確かにパラモーターでもエンジンをかけて、しばらく吹かしながら調子を見ると、回転数が上がれば上がるほどトルクが強くなり、身体が大きく反対側に振られる。自分のプロペラは、前進方向に向かって右回転だから、吹かせば吹かすほど、勢いよく左方向に回転しようとする。自分的には、本能的に身体全体に緊張が走る。急激なふかしは態勢を崩すかもしれないと不安だからだ。

普段からバイク、車や草刈り機など農機具に触れている人たちにとっては、緊張どころか興奮のもとになるのだろうが、文化社会系一筋の自分には正直なところ恐怖感で一杯になる。「じゃ、止めればいいだろう!」という心の中の叫びは、空をふわりふわりと浮遊してみたいという長年の夢を打ち砕くほどの力はなく、しばらくは恐怖心との葛藤が続いていく…。

何が怖いのだろうと考えてみた。それは10年前にインストラクターの言葉を無視して、5mほどの強い風の中で起こった出来事がある。エンジンを始動したままの滑走練習を続けている時、10mほど順調に走った時、「あっ、これって行けるんじゃない!?」という悪魔のささやきに乗ってしまい、200ccエンジンのスロットルを握りしめてしまった。200ccの推進力は大きく自分の想像や対応力を上回っていたようだ。左回転プロペラにもかかわらず、少し左方向に走りながらのテイクオフの結果は、まさに典型的な反転トルクの犠牲者だった。

2011年4月 1秒間の初フライト後のクラッシュ

地面から足が離れた瞬間、実は約1秒後、身体は1メートルほどの高さから、右側の地面に叩きつけられていた。ビデオには3枚カーボンプロペラの先端の一部が大きく真上に飛んでいく様子も映っている。ガードの一部とプロペラの交換という出費があった。しかし、それにも増して右手小指の根本(医学用語では基節骨というらしい)にピンを6本も入れる手術が待っていたのは想定外だった。

Adventure 200 Crash
初のソロテイクオフ後のクラッシュの結果 2011.4.3

事故の直後はアドレナラリンで満たされていたのか、周囲が心配するほどの痛みも感じなかった。すぐに仲間が近隣の病院に連れて行ってくれたが、週末で専門医もおらず産婦人科の医師にレントゲンを撮られ、骨折だから自宅近くの病院で手術を受けるようにと告げられただけだった。寒くなるとあの悪魔のささやきを思い出すよとともに小指の付け根周辺に異和感を覚える。それ以降約8年が経って、もう忘れていたはずなのに、スロットルを絞って飛びたとうとする時、一瞬あの反転トルクのことが脳裏をかすめてしまう。克服には場数を踏むしかない。

こんな古傷をさらけ出す目的は、関係者全員の安全かつ楽しいフライトに資するためです。パラモーターは自然を理解し、自分の技能に見合った環境の中でフライトすれば、安全なスポーツだと言えます。しかし、安全に対する注意や技量不足、そして整備不良や自分の技能に対する過信は、大きな事故を招く危険性をはらんでいることを常に心していなくてはならない。

akira kobayashi

小林 明
Akira Kobayashi

About the Author

1953年、広島県比婆郡(現庄原市)に生まれました。趣味は、映画鑑賞、パラモーター、セスナの操縦(免許はシンガポール大使館在勤中に取得)、スキー、居合道(全日本居合道連盟五段)等です。本職は明治大学で留学や国際教育について教えています。多様な海外留学・活動プログラムを企画実施したり、学生にアドバイスすることも大切なことです。