スロットルワークとエンジン推力との体感実験
テイクオフにあたって、どの程度スロットルを握りしめればいいのか、ずっと不明だった。その都度、かつてのフルスロットルによる反転トルクの悪夢も思い出される。
エンジンの推力を感じるためには、スクールなどに用意されているぶら下り設備を利用することもある。しかし、エンジンをふかしたり緩めたりしても前後に揺れるだけで、どの程度の力で身体を前に押してくれるのか分からない。ただ、トルクの影響で、プロペラの回転方向とは反対方向に身体が向かおうとすること、そして体重移動の効果を実感することはできる。しかし、一番知りたい推力とスロットルレバーの絞り加減の関係性を体感することは難しいようだ。
そうこうしているうちに、10年前に練習をしていた頃のある光景が思い出された。悪い思い出だけではないようだ。Kさんがエンジンをかけて、土手の斜面をスイスイと歩いて登っている様子だった。あんなに重いものを背負って、エンジンをかけて何度も登っては下りを繰り返していた。エンジンの音が少し小さくなると後傾したまま斜面で立ち止まったり、時折一歩くらい後退したりすることもあった。楽しそうなので「やってみたいなぁ。」と思っている内に練習から遠ざかってしまったが、そのことが気になって仕方がなかった。
常総市大崎にあるエンジェルジップ スカイスポーツスクールは、スカイスポーツ機材を輸入・販売している、(株)ラ・ムエッティが運営しています。その練習場は周囲3方を田んぼで囲まれているので、登坂練習はできなかった。10月になり東や東北東などの風になってきたことから、フライトは直線距離で10キロほど離れた菅生にある飯沼川東側の土手下に移った。常総カントリーを対岸に有するこの地は、西側に高い土手があり、登坂実験には最適の場所だ。その日は、8月19日の初フライトと同じくらい待ちに待ったものだった。幸運にも家内が視察(?)に来た日だったので、動画を撮ることもできた。
エンジンをかけて、3段の土手の一番下の斜面を登ってみることにした。興奮しているからかあまり重さを感じていない。ゆっくりとエンジンをふかしてみた。一瞬右肩が上がり、左肩が上がる。「そうかこれがトルクだ…。」と感じる。身体は、真っすぐではなく少し左前に身体を振って第1歩を斜面に押し出した。トルクを意識しながら、さらにスロットルを絞ると1歩、2歩、3歩と身体が斜面を押し上げられていく。推力を感じたいので、できるだけゆっくりと後退しない程度のギリギリのところでスロットルワークを調整してみる。
ビデオでみるとかなり後傾したままになっている。すこしスロットルを緩めると半歩あるいは1歩程度後ずさりしそうだ。横で見ている家内は、後ろに倒れるのではないかとヒヤヒヤしていたそうだ。しかし、自分的には後ろに倒れるという感覚はまったくなかった。ただ、身体が前に進もうとしないだけだった。色んな絞りで4,5回登坂を試した。目いっぱい後ろに体重をかけながらも早足で前進するスロットルワークも試した。スロットルレバーを50%絞るか絞らないかで、駆け足になって登り切ってしまうだけの推力も体感できた。
ユニットのマニュアルにはフルスロットルの推力を40キロだの80キロだのと記載しているが、自分としては、数値を体感するには登坂実験が一番良いと結論づけた。このスロットルワークの練習は、ぜひ貴方にも取り入れてもらいたい。おまけに反転トルクを身体全体で実感することもでき、後悔することはないと思う。
小林 明
Akira Kobayashi
About the Author
1953年、広島県比婆郡(現庄原市)に生まれました。趣味は、映画鑑賞、パラモーター、セスナの操縦(免許はシンガポール大使館在勤中に取得)、スキー、居合道(全日本居合道連盟五段)等です。本職は明治大学で留学や国際教育について教えています。多様な海外留学・活動プログラムを企画実施したり、学生にアドバイスすることも大切なことです。